Share

第10話 二通目

last update publish date: 2026-10-24 16:25:52

拓真が眠れなくなってから四日目。

私は二通目のメールを送ることにした。

「今日は何を送る?」

輝が聞く。

私は画像ファイルを開いた。

ホテルの入口。

拓真と美月が、一緒に出てくる写真。

事故の一週間前のものだ。

偶然撮れたわけではない。

二人のメッセージを見たあと、私が探偵に依頼して撮らせた。

当時は浮気の証拠として。

今となっては、別の意味を持つ。

「これ」

輝が画像を見る。

「効きそうだな」

「でしょう?」

「玲花」

「何?」

「楽しんでないか?」

「少し」

「少し?」

「かなり」

輝がため息をつく。

私はメールを作った。

件名は、《次は会社のお金の話をしようか》。

本文。

《拓真へ。

美月とのことは、もう知ってる。

でも私が知っているのは、それだけじゃない。

LUNAREST PARTNERS。

三千万円。

覚えてる?

次はその話をしようか。

玲花》

写真を添付して、送信。

数分後、開封通知が届いた。

「早い」

輝が言う。

「待ってたんじゃない?」

私は画面を見つめた。

一分。

二分。

三分。

そして、拓真から返信が来た。

初めてのことだった。

《誰だ》

私は笑った。

「返してきた」

輝が横から画面を見る。

《玲花を騙るな》

続けて。

《何が目的だ》

そして。

《金か?》

私はキーボードに指を置いた。

「返信するのか?」

「する」

私は入力した。

《お金なら、もう十分持ってるでしょう?

私の会社のお金を三千万円も持っていったんだから》

送信。

数秒後、拓真の返信。

《何を知ってる》

「かなり焦ってる」

私が言うと、輝は腕を組んだ。

「もうやめた方がいい」

私は彼を見る。

「どうして?」

「拓真が動く」

「それが目的よ」

「違う」

輝の声が低くなる。

「追い詰められた人間は、何をするか分からない」

「もう一度殺す?」

冗談のつもりだった。

でも、輝は笑わなかった。

「そういうことだ」

私は少し黙った。

そのとき、受信トレイに新しいメールが届いた。

拓真ではない。

知らないアドレスだった。

輝と顔を見合わせる。

私はメールを開いた。

《玲花さんですか?

白石です。

拓真さんのスマートフォンで、このアドレスを見ました。

本当に玲花さんなら、この番号に電話をください。

お願いします》

最後に、携帯電話の番号が書かれていた。

「罠かもしれない」

輝が言う。

「分かってる」

私は、輝が用意してくれた通話用のスマートフォンを手に取った。

「非通知でかける」

「待て」

私は番号を押した。

呼び出し音が一回鳴っただけで、相手が出た。

沈黙。

かすかな息遣い。

私は何も言わなかった。

すると、女性の声がした。

震えている。

『……玲花さん?』

知っている声。

白石美月。

『玲花さん、生きてるんですか?』

私は答えない。

美月が続ける。

『お願い』

泣いている。

『私、あの人があなたを殺すなんて知らなかった』

私の背中を、冷たいものが走った。

輝が私を見る。

私はスピーカーに切り替えた。

「美月」

初めて声を出す。

電話の向こうで、息を呑む音がした。

『……玲花さん』

「今、どこ?」

沈黙。

そして、美月が言った。

『拓真さんに、殺されるかもしれない』

そこで通話が切れた。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 私を殺した夫へ―午前0時、死んだ妻からメールが届く   第17話 あの日の録音

    午後十時五十五分。MIZUKI DESIGN旧本社。二年前に本社を移転してからは倉庫として使われ、今は売却を待っているビルだ。人の気配はほとんどない。一階の暗いロビーに、私は一人で立っていた。見える範囲では、本当に一人。でも、輝は別室にいる。美月もいる。警備会社のスタッフも建物内にいる。音声も映像も、弁護士のもとへ届いている。午後十一時。自動ドアが開き、拓真が入ってきた。一か月以上ぶりに見る夫だった。痩せた。髪も少し乱れている。でも、十年間毎日見てきた顔だ。拓真は私を見て、止まった。本当に、幽霊を見たような顔だった。「……玲花」私は答えた。「久しぶり」彼の唇が震える。「生きて……」「残念だった?」「違う!」拓真が近づこうとする。私は一歩下がった。「そこにいて」拓真が止まる。「玲花、聞いてくれ」「聞くために呼んだの」「全部誤解なんだ」思わず笑った。「便利な言葉ね」「俺はお前を殺そうとなんてしてない」「じゃあ、何をしたの?」「何も」「ブレーキ」拓真の顔が変わった。ほんの一瞬。でも、見逃さない。「何の話だ」「LUNAREST PARTNERS」沈黙。「三千万円」「会社の正当な支出だ」「私の辞任届」「会社として必要だった」「事故の二日前に?」拓真が黙る。私は一歩前へ出た。「MIZUKI DESIGNのお金を移して」もう一歩。「資金繰りを

  • 私を殺した夫へ―午前0時、死んだ妻からメールが届く   第16話 罠

    美月からUSBを受け取ったのは、翌日の夜だった。場所は、輝が指定したホテルの地下駐車場。人目につかない場所だ。美月はタクシーで来た。帽子を深く被り、何度も後ろを振り返っている。「これです」差し出された小さなUSBメモリを、私は受け取った。「中身は?」「拓真さんとの会話です」「いつの?」「玲花さんの事故の前日です」私は輝を見た。彼がノートパソコンを開き、USBを挿す。音声ファイル。日付は、事故の前日。再生。最初に聞こえたのは、グラスの触れ合う音。店内のBGM。そして、拓真の声。『明日で終わる』私は息を止めた。美月の声。『何が?』『玲花のこと』『どうするつもり?』少しの沈黙。『しばらく会社から消えてもらう』『それって……』『心配するな』そこで一度、録音が途切れる。次のファイル。拓真の声。『ブレーキだけでいい』私の手が止まった。『死ななくても、しばらく会社から消えてくれればいい』美月。『そんなことしたら事故になるでしょ』『事故になればいいんだよ』空気が凍った。私は何も言えなかった。録音は続く。『もし死んだら?』美月の声。そして、拓真。少し笑っている。『それならそれで、面倒が減る』そこで、私は再生を止めた。それ以上は、聞けなかった。輝が無言でパソコンを閉じる。美月が泣いていた。「ごめんなさい」私は彼女を見た。「カフェで、車のことは知らなかったって言いま

  • 私を殺した夫へ―午前0時、死んだ妻からメールが届く   第15話 生きている女

    拓真は確信していた。玲花は生きている。写真。メール。消したはずの情報を知っている。偶然ではない。問題は、どこにいるか。誰といるか。そして、どこまで知っているか。拓真は一人の男に連絡した。「女を探してほしい」『誰です?』「水城玲花」沈黙。『事故で行方不明の人じゃ……』「生きてる」『警察は?』「余計なことは聞くな」拓真はいくつかの住所を送った。玲花の友人。親族。そして、神谷輝。その名前を打ち込んだとき、拓真の眉が動いた。大株主。玲花の元恋人。事故の前に、二人が会っていた記録もある。「神谷……」嫌な予感がした。◇その頃、私は隠れ家の窓辺に立っていた。夕方。外は静かだった。輝は仕事の電話をしている。私はコーヒーを飲んだ。昨日の喧嘩以来、少し気まずい。でも今は、それより考えることが多すぎる。証拠。拓真。これからのこと。ふと、道路に目をやる。一台の黒い車。見覚えがある。さっきから、ずっと停まっている。エンジンは切っていない。私はカーテンを少し閉めた。「輝」「何」「外」彼が近づいてきて、窓の外を見る。表情が変わった。「どれだ」「黒い車」「いつから」「分からない」輝はスマートフォンを手に取った。「ここを出る」「今?」「今だ」「大げさじゃ……」「玲花」

  • 私を殺した夫へ―午前0時、死んだ妻からメールが届く   第14話 輝の秘密

    私と輝は、また喧嘩をした。理由は、十五年前のことだった。「もう逃げないで」私は言った。「逃げてない」「じゃあ話して」輝は黙る。「お父さんに何を言われたの」「玲花」「もうお父さんはいない」父は六年前に亡くなった。だからこそ、今さら本人には聞けない。「知りたいの」輝は窓の外を見た。そして、ようやく口を開いた。「当時、会社はかなり危なかった」それは知っている。あのころ、父の会社は資金繰りに苦しんでいた。「銀行から追加融資を受ける必要があった」輝が続ける。「そのとき、大手企業の創業家との縁談が持ち上がった」「私の?」「そう」「それとあなたが別れることに、何の関係があるの」「相手の家が、君に恋人がいることを気にしていた」私は言葉を失った。「お父さんが……」「俺に、別れてほしいと言った」「それで別れた?」「そうだ」怒りが湧く。「私に相談もせずに?」「相談したら、君は父親と会社を助けるために、自分を犠牲にした」「勝手に決めないで!」「分かってる」「じゃあ、その縁談は?」輝は少し苦しそうに答えた。「結局、成立しなかった」「……何?」「君のお父さんは、別の金融機関から資金を調達できた。正式な婚約になる前に、話はなくなった」「じゃあ」私は笑った。笑うしかなかった。「何のために別れたの?」輝は答えない。「そのあと、戻ってくればよかったでしょう」「戻ろうとした」初めて、輝がそう言った。「会社が持ち直した半年後に」私

  • 私を殺した夫へ―午前0時、死んだ妻からメールが届く   第13話 消される証拠

    翌日。会社のサーバーから、複数のファイルが削除され始めた。会計。契約。社内メール。私は監査用バックアップの画面を見ていた。「始まったな」輝が言う。「拓真が気づいた」通常のサーバーからは消えていく。でも、監査用バックアップには残る。「消せば消すほど、操作ログも増える」私は言った。削除を実行している管理者IDは――青木。退職したはずの人間のアカウントが、まだ生きている。「青木さんは、まだ拓真とつながってる」◇その日の夜。拓真のスマートフォンに、一枚の写真が届いた。送り主は、彼が雇った調査員。《この女性ではありませんか?》小さなカフェ。帽子。眼鏡。横顔。変装としては悪くない。しかし、十年一緒に暮らした夫には十分だった。拓真は画面を拡大した。手。鞄の持ち方。俯いたときの首の角度。「玲花……」もう一枚。店を出る女性。その後ろに、神谷輝。拓真は確信した。玲花は生きている。そして、神谷と一緒にいる。恐怖が、一瞬で怒りに変わった。拓真は電話をかける。「間違いない」低い声。「水城玲花だ」◇その頃、私は三通目のメールを作っていた。《拓真へ。会社のサーバー、ずいぶん整理してるみたいね。でも残念。消す前に全部見た。青木さんにもよろしく。玲花》輝が画面を見て言った。「送るのか?」「送る」

  • 私を殺した夫へ―午前0時、死んだ妻からメールが届く   第12話 もう一人の裏切り者

    カフェを出たあと、私たちはすぐに場所を移した。輝の車の後部座席には、美月も乗っている。「本当に会社の車だった?」輝が聞く。「はい」美月が答える。「ナンバーも覚えてます」私はそれをスマートフォンにメモした。「誰が運転してた?」「分かりません」「拓真?」「違うと思います」私は窓の外を見た。では、誰なのか。会社の中に、まだ誰かいる。拓真の協力者が。隠れ家へ戻ると、私は以前保存していた経理データをもう一度開いた。ひとつの名前が浮かぶ。青木。経理責任者。《この件は、あまり触られない方がいいかもしれません》あの言葉。「まさか」でも、調べない理由はない。私は監査用バックアップの人事データを開いた。答えはすぐに出た。「青木さん、辞めてる」「いつ?」輝が聞く。「事故の三日後」私は息を止めた。退職理由は「一身上の都合」。記録にあった番号に電話をかけてみる。つながらない。輝が人を使って自宅を確かめると、すでに引っ越したあとだった。私は椅子に座り込んだ。「逃げた」輝が言う。「もしくは、逃がされた」青木。父の代からいる人。私が子どものころから知っている人。会社で何度も助けてもらった。その人まで。「裏切ってたのかな」声が少し震えた。輝は答えなかった。そのとき、美月からメールが届いた。《青木さんのことなら、少し知ってます》私はすぐに電話をかけた。「何を?」『拓真さんと、よく会ってました』

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status